「やりたいことができないのは時間がないから」そう思い続けていたのに、お子さんが独立し、いざ時間ができてもやりたいことが一向に進まないことに戸惑いを感じた高木さん。できないことがある自分を認めて、試行錯誤をする楽しさを感じられるようになったタイムコーディネート実践の日々について伺いました。
やりたいことができないのは時間がないからではない⁉︎
――タイムコーディネート手帳に出会う前は、どんなことで悩んでいましたか?
高木真由美さま(以下、高木):7年前に古民家を買い、夫と2人で里山暮らしをしています。里山暮らしを始めたのは畑がやりたかったからです。自分の時間はたっぷりあるのに、やりたかったはずの畑仕事になかなか取り組むことができないことに悩んでいました。
以前からうまく時間を使えていない自覚はありました。それでも当時は、子育てもあるし、複数のボランティア活動に携わっていたので、「忙しいから仕方がない」と自分を慰めていたんです。
里山暮らしを機にボランティアをすべてやめて、2人の子どもたちも独立し、自分で自分の時間の使い方を決められるようになりました。1年目は介護がありましたが、2年目以降は何をするにも本当に自由なはずでした。それなのに、畑仕事は思うように進まない。畑に行ったら行ったで、畑のことに集中しすぎて家事ができなくなってしまう。どうしてだろう? どうやったらうまく時間が使えるようになるのだろう? と思っていました。
――そんなときに、タイムコーディネート手帳を知ったんですね。
高木:タイムコーディネート手帳は知人の紹介で知りました。使い始めて3年目になります。実は、1年目のときにはうまく使いこなすことができませんでした。2年目に手帳購入者限定のワークショップに初めて参加しました。
時間の使い方に向き合うことがこんなに楽しいなんて! と驚いたことを覚えています。
自分の心地よさに素直になってみる
――ワークショップに参加して変化はありましたか?
高木:2024年のワークショップに参加して、やりたいことをやるためにボランティア活動をやめて一人の時間を確保したけれど、私は人と一緒にいるからこそ動けるのかもしれない、と感じました。そこで、友人を自宅に招いたり、畑を手伝ってもらったり、ボランティアで子育てサポートを再開してみました。けれど、やっぱり時間に追われている感覚が拭えず、畑の時間を増やすこともできませんでした。試行錯誤を繰り返しているうちに、2025年のワークショップがスタートし、そこで“心地よさ”というキーワードが改めて響いたんです。
――3年目に改めて“心地よさ”を意識しはじめて、ご自身の“心地よさ”は変わりましたか?
高木:それまでの私にとって、心地よい状態=人に嫌われていないと思えていること、でした。「ありがとう」と言ってもらえたり、笑顔を見せてもらえたりしたら、私は嫌われていないから大丈夫。そんな考え方でこれまでずっと生きてきたんです。
麻子さんのお話を繰り返し何度も伺って、自分の心地よさを他人に委ねている状態は自分の人生の手綱を握れているとは言えない、と思うようになりました。
ワークショップで出会うみなさんは、自分の心地よさに対してとても素直でした。私は「こんなことを心地よいと思ってはいけない」「人の役に立つことをやってこそ心地よいはず」と勝手に思い込んで、自分にとっての本当の心地よさに蓋をしていたのかもしれない、とも感じました。

――自分の本音に向き合い始めたのですね。
高木:畑にいる時間が心地よい時間なのは確かでした。ただ、もっと掘り下げると、畑でクタクタになるまで無心になって土いじりをして、疲れた体をお風呂でゆるめて、「今日もよく頑張ったなぁ」と思いながらご飯を食べて寝る、そんなシンプルな暮らしを私はしたかったんです。
周りと比べて収穫量を気にしたり、道具を準備したり、そういうことを煩わしく感じていたことにも気づきました。
自分にとっての本当の心地よさに気づけたものの、そこから日々の過ごし方にどう落とし込めばいいのかを迷っていたときに、「タイムコーディネート実践プログラム」があることを知り、参加を決めました。
――「タイムコーディネート実践プログラム」に参加してみてどうでしたか?
高木:2週間に1度グループコンサルティングがあるのですが、そこで自分が感じていることややってみたことをまとまらないままでもアウトプットして、それを的確に言語化し直してもらえることで、新たに気づけることがありました。
自分が何を感じているかを誰にも否定されることなく話せたり、試行錯誤の過程をあたたかく見守ってもらえたり……。そんな経験をこれまでしたことがなかったので、この時間そのものが心地よく感じました。プログラムに参加したことで、自分の本音にどんどん近づけています。
「振り返り」なんて必要ないと思っていた
――自分にとっての“心地よさ”の精度が上がったのですね。
高木:自分と向き合う時間が持てるようになりました。自分の時間の使い方を知るために、ログを取るといいとわかっていても、自分だけだとなかなか続かなくて。けれど、プログラムに参加するとワークがあるので、ログを取り続けることもできました。
今年から本格的に畑も始めたんですが、今年はログを取る年だと思っています。収穫量は気にせず、まずは工程ごとにログを取ることに集中して、来年以降に生かすつもりです。
以前の私は前を向いて進めていたらそれでいいと思っていました。振り返ることが不得意というより、そもそも私の辞書には「振り返り」なんて言葉はなかったんです。けれど、ログを取り、振り返ることで、同じ失敗を繰り返していたことがよくわかりました。
――振り返りはいつ、どんなふうにしているのですか?
高木:いろいろ試した結果、今はお昼に振り返りの時間を取っています。お昼は暑くて畑仕事には向かない時間帯で、お昼ごはんを食べ終わった後はダラダラしてしまいがちでした。そこに振り返りの時間を入れることで、タスクが残っていたとしても午後から立て直しもしやすいし、今のところうまく回っています。
手帳とは別に、タスクを一覧にしたシートを作って振り返りに使っています。私は一つのことに没頭すると普段やっているルーティンも忘れてしまうことがあるので、顔を洗う、歯を磨く、ゴミを捨てる、といった日常生活でやることも細かく書いています。
小さなタスクを一つひとつ書き出し、お昼に振り返りをするようになって、やるべきことをやり残している感覚が随分と減りました。
――タイムコーディネート手帳でお気に入りの使い方はありますか?
高木:『3ヵ月プロジェクトシート』を3枚コピーして、1年分・4枚を一覧できるように繋げて使っています。ページをめくることなく、1年を俯瞰してみることができるので、タスクを詰め込みすぎていることにも気がつきやすいです。
『ウィークリーページ』はお昼の振り返り時間に思いついた晩ごはんの献立や買わなくてはいけないものをメモすることもありますし、ノート代わりに使っています。
「タイムコーディネート実践プログラム」のグループコンサルに出た日や人と会った日に、聞いたこと・考えたことをメモしています。確認したいときには、「グルコンの日は◯日だったから……」と日付がわかれば、書いてあるページがすぐに見つかるので便利です。
「今更」じゃなく「今だから」こそ心地よさを大事にしたい
――振り返りの方法や手帳の使い方もご自身の心地よさを大事にしているのですね。
高木:年齢を重ねて、周りには「あとは老人施設に入るだけだね。どこの施設に入る?」なんて話をする人もいるのですが、私はそんなふうには思えませんでした。
タイムコーディネート手帳やタイムコーディネート実践プログラムを通して、自分の素直な気持ちや本当の自分を知ることができました。自分にがっかりすることもあるけれど、そんな自分を丸ごと認めた上で、「心地よく過ごすにはどうしたらいいか?」を考えればいいと思えるようになりました。
うまくいかないときには、麻子さんからアドバイスをもらいながら次の作戦を練り、またやってみる。この試行錯誤がすごく楽しいんです。ようやく自分を大切にできるようになってきた実感があります。
――まさに今、変化の真っ最中という感じがします。
高木:『VISION逆算シート』に書いていることも、今は3ヵ月くらいで変わっている感覚があります。以前は「笑顔いっぱいの社会をつくる」と書いていましたが、今見ると言葉が上滑りしている感じがします。そういう世界がいいと思う気持ちはありますが、自分が目指す未来像はもっとシンプルで、クタクタになるまで体を動かして心地よく1日を終えることだと今は思っています。これもまた変化するかもしれませんが。
タスクをちゃんとこなせるようになることも嬉しいけれど、それ以上に、今はとにかく自分と向き合うことがおもしろくて仕方がないんです。またこんな自分が出てきた! こんな自分もいたのか! と思えることが楽しくて。これからもどんどん私は変わっていくのだと思います。
このおもしろくて楽しい世界で過ごせる毎日が、今はとても楽しいです。
聞き手・編集:はせべ あつこ