大学教員として忙しい毎日を送るIさま。キャリアアップを目指し、がむしゃらに頑張る日々に疑問を感じ始めた頃、タイムコーディネートに出会いました。仕事は社会的意義を感じているし楽しいけれど、家族との時間も大切にしたい。そんなご自身の思いを叶えるためのタイムコーディネート活用法を伺いました。
結果を出さなきゃ! 焦燥感からワーカーホリックに
――タイムコーディネート手帳に出会う前は、どんなことで悩んでいましたか?
Iさん:私は大学で教員をしています。わが家には子どもが3人いるのですが、3人目の娘が保育園に入った段階で博士号を取ろうと決めました。博士号を取得してからも、年齢の割にキャリアが浅いことを挽回すべく、もっと論文を書かないと! もっと業績を上げないと! と常に焦ってばかりいました。
以前使っていた手帳は、限られた時間にできるだけたくさんのタスクを詰め込んで、やりたいことを実現していくメソッドを元に作られていました。私もメソッドに忠実に、次々と論文を書く計画を立てて、子どもたちが寝静まった夜中に執筆する生活を送っていたんです。
研究者としては充実していたものの、イライラしがちで子どもに対してゆとりをもてない自分に疑問を感じたり、段々と疲れが取れなくなってしまったり……。「私は本当にこれでいいのかな?」そう思っていた昨年末、たまたま吉武さんの『目標や夢が達成できる 1年・1カ月・1週間・1日の時間術』をAudibleで聞きました。
――タイムコーディネートの考え方を知って、いかがでしたか?
Iさん:すごく優しいメソッドだと感じました。タスクを詰め込みすぎていることに気づかせてもらえたし、「頑張りすぎなくていい」そう言ってもらえた気がしたんです。
研究職は大変だし、苦しいけれど、楽しくもあります。オーバーワークだとわかっていても、もっと研究をしたい、成果を出したい、結果を残したいという思いが強くありました。研究者はどうしてもキャリア偏重のマインドセットになりがちな気がします。
そこからさらに、『時間デトックス』を読んだり、ワークショップに参加したり、吉武さんの発信を聞き続けて、少しずつタイムコーディネートのメソッドを吸収していきました。今は、自分にとっての「心地よさ」を大事にできるように試行錯誤をしているところです。

集中力を守るために、メールチェックは時間を決めて
――実際に時間の使い方にはどんな変化がありましたか?
Iさん:裁量労働制で働いているので、割と融通のきく働き方をしています。週に1〜2日は大学に行きますが、自宅で仕事をすることが多いです。フレキシブルな働き方ができる分、オンとオフの区切りがつきにくいことにも悩んでいました。
今はタイムコーディネート手帳の『ウィークリーページ』に、仕事の開始時間と終了時間に線を引いて、仕事時間を可視化し、オンとオフを意識しやすくしています。
4時か4時半には起きて、朝時間を活用しています。朝起きたらやりたいことを前日夜にはなるべくセットしておくようにもなりました。いずれ国際機関で働きたいと思っているので、朝時間は語学の勉強に充てることが多いです。
朝ごはん前に自分がやりたいことにグッと集中できると、その日1日の満足度が違いますね。
以前は、なんとなくメールを開いてしまい、ズルズルと対応に時間を取られて貴重な朝時間を終えてしまうこともありました。今は、基本的にメールをチェックする時間を決めています。
―― メール対応のルールを決めるのはいいですね。
急ぎで対応すべきことがある日は時間に関わらずメールを確認することもあります。けれど、自分の研究に集中できる環境作りを優先したいと思っています。
『マンスリーページ』の上のスペースに曜日ごとにどの分野の研究をするかを書いているんです。15時まで、せめて午前中は手帳に書いている自分の決めた仕事に集中するようにしています。メールはその後にまとめて一気に返信しています。
もちろん思い通りに進まない日もありますが、考え方や時間の使い方は確実に変わってきました。しっかりと自分が主導権を持って毎日を過ごせているので、すごく気持ちがいいです。
振り返りの時間は“付箋”でキープ
――振り返りの時間はどうやって確保するようにしていますか?
Iさん:「振り返り時間」と書いた付箋を『ウィークリーページ』の日曜日15時の欄に貼っています。振り返りが終わったら、翌週の日曜日15時の欄に貼り直して、翌週の振り返り時間を確保するようにしています。
日曜日15時に予定が入ったときには、土曜日の別の時間に付箋を貼り直して、週末のどこかで必ず振り返りの時間を取るようにしています。振り返りは、私にとって楽しい時間です。
――やはり時間をしっかりと確保しておくのがコツなんですね。振り返りの時間には、具体的にどんなことをしているのですか?
Iさん:手帳を買った時期が遅かったので、『ウィークリーページ』の前の方が空いています。その空きスペースに、理想の1日を書き出しているんです。理想の1日が書いてあるページと『3ヵ月プロジェクトシート』を見ながら、1週間の過ごし方を振り返って、『ウィークリーページ』にある成果・改善・手放し欄に記入します。

あとは、『VISION逆算シート』を見ながら、次の1週間でやることが自分のVISIONやMISSIONにつながっていることを確認します。じっくりと考えるわけではありませんが、方向性がズレていないことをなんとなく確認できるだけでも安心するんです。
振り返りには1時間くらいはかけているでしょうか。この時間をもつと翌週のスタートが気持ちよく切れます。
――振り返りの時間を持つことでどんな効果がありましたか?
Iさん:自分の時間を自分がコントロールできている実感を得られるようになりました。
「日本人女性」というと主語が大きくて誤解を招くかもしれませんが、特に働くお母さんは自分の思いをどうしても後回しにしがちだと思います。私自身も家族に対して、働かせてくれて「ありがとう」、出張に行くときには「ごめんね」と、まるで何か悪いことをしているかのように後ろめたさを感じてしまうこともあります。
声高に男女平等を訴えたいわけではありませんが、働くお母さんももっと自分の心地よさを大事にして生きたらいいよね、とタイムコーディネートを知った今は思えるようになりました。振り返りの時間を持つことは、自分を大事にすることにつながっていると思います。
結局、仕事には終わりがないんですよね。やってもやっても仕事が減ることはないし、増え続けます。そのことに気付けてからは、闇雲に仕事をたくさんこなすことを目指すのではなく、自分主導で毎日を心地よく過ごすことを大事にしたいと思うようになりました。
満足度は人生トータルで考える
――ご自身が研究者としてやりたいことを手放したり、先送りしたりすることに葛藤はありませんか?
Iさん:もちろんあります。これは研究者に限った話ではないと思いますが、どんどん後から優秀な人は出てくるので、頑張り続けなければすぐに存在を忘れられてしまいます。厳しい世界に身を置きながら、「二番手でいい」と覚悟を決めることは相当難しいです。けれど、一流の研究者になったら私は本当に幸せなのかを考えてみたんです。娘が助けを求めているときに手を差し伸べられないのであれば、それは私にとって幸せな状態ではないと思いました。
人間が一生でできることには限りがあります。そのなかで、どんなバランスが自分にとっては幸せなのかを今は考えるようになりました。
――時間は有限であることを実感して、何をするかを自分で選べるようになったのですね。
Iさん:仕事は自分がしたいかしたくないかだけで決められない場合もありますよね。お世話になった方から依頼されたり、相手が困っていたりすると、ついつい無理をしてでも受けなくては、と思いがちです。以前は、次の仕事に繋げるためにこの依頼を受けておいた方がいいかな、といった少し打算的な理由で仕事を受けることもありました。
タイムコーディネートを実践し始めて気づいたのは、自分が思っているほど、仕事を断ることが相手にとってはダメージにはならない、ということです。
依頼されている仕事のなかで、「Iさんじゃないとできないからお願い!」そう依頼されている仕事がどれだけあるかを冷静に考えられるようになりました。
追われている感と達成感は、表裏一体だと思うんです。確かに論文を次々と発表していた時期は達成感があったけれど、精神的な負荷はすごく大きかったです。今は家族との暮らしを大事にしながら、数よりも質を重視したアウトプットを仕事ではしていきたいと思っています。十分な調査をして、一言一句考え抜いて書いた、そんな論文を出したいです。
――キャリア単体の満足度ではなく、人生トータルの満足度で考えるようになったということでしょうか。
Iさん:正直、仕事では以前よりも悔しい思いをすることが増えました。けれど、以前なら感じていたであろう喪失感はほとんどありません。私にとってキャリアはとても大事なものではあるけれど、人生トータルで考えると、今の自分の方がずっとよい状態でいられています。
『5つの「私」役割シート』に書いた3年後の「私」の欄には、仕事を決めた時間内で終わらせて、そのあとは仕事のことを考えずに子どもとのんびり過ごしている、と書きました。
タイムコーディネートの考え方を基軸として、自分にとっての一番心地よい時間の使い方をこれからも試行錯誤しながらさらに見極めていこうと思っています。
聞き手・編集:はせべ あつこ