好きなことを仕事にしていて充実しているはずなのに、何か大事なことを忘れている気がする。そんな気持ちを抱えながら、忙しい毎日を過ごしていたという野中さつきさん。タイムコーディネート手帳を使い始めたことで、未来にワクワクしていた頃の自分を取り戻せたそうです。そんな野中さんにタイムコーディネート手帳を使ってからの変化について伺いました。
※本記事は2022年12月23日にお送りしたInstagramライブ配信「タイムコーディネート手帳が私たちにもたらしてくれたもの」でのインタビュー内容を再編集したものです。
野中 さつき さん
マスタータイムコーディネーター
株式会社tree代表
Made in Japan Project 理事
高校卒業後の約10年間、国内外をひとり旅しながら接客業を中心に様々な職種を経験。
その後、輸入雑貨メーカーに商品企画担当として入社。雑貨ブランドの立ち上げに携わる。 ベトナムのジャングルで言葉の通じない民族と雑貨を作り、全国に流通させるノウハウを学ぶ。
現在は、企業・店舗のロゴ制作から、駅の再開発プロジェクト、企業とアーティストを繋ぐ架け橋など、幅広いクリエイティブ業務に参画。 また、デザイン専門学校で講師をしながら、地元のクリエイティブを盛り上げるべく、未来のクリエイター育成にも力を注いでいる。
暮らしを立て直す時間がない
吉武 麻子(以下、吉武):さつきさんは時間に関してどんな悩みをお持ちでしたか?
野中 さつきさん(以下、野中):以前は、デザイナーとして好きなことをやってはいるけれど、稼げていない状態でした。なので、苦手だったお金に向き合おうと思ったんです。ただ、向き合うための時間がそもそも取れなくて。そのときに、お金のことを相談していた方に教えてもらったのが、タイムコーディネート手帳でした。
吉武:暮らしを立て直すための時間が必要、というところからタイムコーディネート手帳に出会ってくださったんですね。
野中:はい。私は15歳から一人旅をはじめました。色んな国を一人で旅しながら、結構なんでも挑戦して、やりたいことをやって、「もう明日死んでも悔いはない!」そう思える生き方をしていました。
ただ、おなかに双子がやってきてくれたことで、私の生き方は大きく変わったんです。
子どもは大好きでしたが、双子を授かったあとにデザイナーとして独立し、シングルマザーになったので、壮絶な毎日でした。1人は抱っこ、1人はおんぶをして、子どもたちも私も泣きながら、夜中の2時にパソコンに向かってデザインをする、そんな暮らしをしていたんです。当時は40分寝られたら、うれし泣きをしてしまうような状態でした。
吉武:それはつらいですね・・・。
野中:笑い方がわからなくなってしまった時期が結構長く続きました。好きなことを仕事にしているのに、本当につらくて。そのつらさを少しでも減らしたくて、お金に向き合おうとしたことで、根本的な時間の使い方、生き方を見直す必要性に気付けたことはよかったんです。
大事なことを忘れているような気がしていた
吉武:タイムコーディネート手帳を使って、まずどんな変化がさつきさんに起きましたか?
野中:すごくいろんなことが変わりました。タイムコーディネート手帳を知る前は、手帳を何十冊も使っては、うまく活用できない・・・を繰り返してきました。直近では、Googleカレンダーを2年ぐらい使っていました。仕事はちゃんと回るようになったし、「あれをやり忘れた!」ということはなくなりつつあったんです。
仕事自体は楽しいから、「私は充実している」とも思っていました。けれど、ずっと何かに追われていて、大事なことを忘れているようなモヤモヤした感じがありました。
タイムコーディネート手帳を使ってみると、「あ、そうか。ここがごっそり抜けていたんだな」と感じるところがいっぱい詰まっていたんです。久しぶりに、一人旅をしていた頃に感じていた「自分の人生をこうしていきたい!」という気持ちを思い出すことができました。
吉武:目の前のことをやるのに精一杯だったから、自分の本当にやりたいことが抜けてしまっていた感じだったのでしょうか?
野中:はい、そうですね。今、タイムコーディネート手帳を使い始めて2年目ですが、最近は緊急のタスクがなくなる瞬間もあるんです。ここ10年以上、そんなことはあり得ませんでした(笑)。
ずっと納期に追われて押しつぶされそうになっていたのが、今ようやく、じっくりと自分に向き合える感覚が持てています。
3つの視点で自分の人生が立体的になった
吉武:緊急のタスクがなくなるまで整理をするのはすごいことだと思います。さつきさんのなかで何かポイントになったことはありますか?
野中:そうですね。「3つの視点」を持てるようになったことだと思います。
目の前のことをじっくりと見る「虫の目」、流れを把握する「魚の目」、ちょっと引いて上から見る「鳥の目」という、3つの視点です。タイムコーディネート手帳を使うと、この3つの視点が自然と備わるというのは、私のなかですごく大きなポイントでした。
ウィークリーでは、虫の目でしっかりと目の前の今日やることを確認できます。そして、見開きで2カ月を見渡せるマンスリーや『3カ月プロジェクトシート』を使えば、時間の流れを「魚の目」で確認できる。さらに、『VISION逆算シート』で人生を俯瞰して「鳥の目」で確認できるんです。タイムコーディネート手帳で、立体的に自分の人生を見ていく練習ができるのはすごいことだと思います。
吉武:ありがとうございます。時間管理というと、どうしても近視眼的になりがちです。どうやって少しの時間でも生み出して、隙間時間にタスクを詰め込むか、という視点になってしまうんですよね。「何のためにやっているのか?」が抜けてしまうから、時間に向き合うことが余計に辛くなってしまいます。
目的を見失いそうになったときに立ち戻れるところ。そして、まだ遠く感じる目的と今がつながっている実感を得られるところ。そして、今を確認できるところ。この3つがしっかりとタイムコーディネート手帳にはあります。そこに気付いてくださっているのは、すごくうれしいです。
野中:その3つの視点でいうと、私が苦しくなるのは「虫の目」だけで見ている時なんです。
吉武:わかります!
野中:目の前のことしか見えていない時は苦しくなるけれど、「あー、苦しいな」と思ったら、「よし、別の目で見てみよう!」といった感じで、視点を変えてみるようにしています。すると、「今週はちょっとキツイけれど、来週は一息つけるぞ」とか、「来月にはこうなっているはず」といった見通しが立てられるんです。張り詰めていたものが少しやわらいで、呼吸もしやすくなる感じがします。
吉武:すごくいいですね。苦しくなったときには自分の「なんのため」に立ち戻る、というのはとても大事なことだと思います。
自分を誇りに思える生き方をしたい
野中:高校生のときに失明寸前のケガをしたんですが、この経験がいまだに私を支えてくれているし、タイムコーディネートの要素がすごく詰まっていると思うので、お話させてもらってもいいですか?
吉武:もちろんです!
野中:私は17歳のときにやり投げをしていました。ただ、デビュー戦で他校の選手が持っていたやりが左目に刺さってしまったんです。病院の先生からは、「もう運動はできないし、もちろんやり投げもできないよ」と言われてしまいました。部屋のカーテンを全部閉めて、ご飯もほとんど食べずにずっと泣いていました。
1週間くらい泣き続けたある日、「私の目の前に2つの道ができたな」と思ったんです。
1つは、つらくて泣いてばかりの腐っていく人生。もう1つは、5年後・10年後に振り返ったときに「あのとき、やりが目に刺さったから今の私がある」と自分を誇りに思えるような人生。どちらが自分の人生であってほしいかを考えたときに、私は自分を誇りに思える人生を歩みたいと思ったんです。俯瞰して自分を見ることができた瞬間でした。
そこから、先生には内緒で、スポーツセンターでリハビリを1年間がんばりました。あと、私にやりを刺してしまった人にも一緒に乗り越えてほしいと思い、2週間お相手の学校に電話をかけ続けました。
お相手は罪悪感から「もうやり投げは辞めます」と言っていました。「私は諦めないから一緒にがんばらない?」と伝え続けて、最後には「一緒に乗り越えたい」という手紙も書きました。そうしたら、「負けました」という連絡がきたんです。
結局、1年後、同じ競技場で会うことができました。「お互い、手加減なしだよ」と言い合って、結果、私は名古屋市で優勝することができたんです。
吉武:感動してウルウルしてしまいます。すごいお話ですね!
野中:あのとき、私がずっと虫の目でしか見られていなかったら、私は引きこもりになっていたかもしれません。視点を変えて、人生を俯瞰して捉えることができたから、私と関わったことでお相手にも悲しい人生を送ってほしくないと思って行動できました。
あのときの視点を変えられた経験や、自分が大事にしたいことが、タイムコーディネート手帳には全部詰まっているんですよね。そこが、今世の中にある手帳とタイムコーディネート手帳の大きな違いだと感じています。
吉武:なかなかその状況で2つの道がある、ということに気付けないですよね。未来のことを考えるエネルギーもなくて、今の感情に浸ることを選びがちです。そこを自分でしっかりと道を選び取れるのがすごいことだと思います。
野中:ありがとうございます。
吉武:さつきさんみたいにご自身で気付いて、生き方を選べるのはもちろん素晴らしいことです。ただ、自分で意識的にできなかったとしても、タイムコーディネート手帳を使っていると、自然と自分が選びたい方を選べるようになっていきます。実はすごく考えられた手帳なんです(笑)。設計の妙に、私自身もあとから気付くことがたくさんあります。
子どもや若者にこそタイムコーディネートが必要
吉武:さつきさんと私の共通点が、タイムコーディネートを子どもや若者にも伝えていきたい、という想いがあるところなんですよね。
さつきさんは今、専門学校でも講師をされていて、学生さんたちにもタイムコーディネートの考え方が必要だと感じられたんですよね。それで、マスタータイムコーディネーターとして、彼らにタイムコーディネートを伝えることもしてくださっています。
学生たちの反応はどうですか?
野中:「こういう風にやっていきたい」とか「ここが全然考えられていなかったことに気付けた」とか、いろいろなフィードバックをもらいました。なかには、考え過ぎてしまったのか、涙ぐんで早退してしまった子もいたんです。けれど、その子も一生懸命タイムコーディネート手帳を書いてくれて、「肩の荷がスッと降りた感じがします」と言ってくれました。本当にみんなが真剣に取り組んでいましたね。
吉武:タイムコーディネートのゴールは時間をうまく使うことではありません。自分が心地よい、楽しいと思うことをやっていくこと、それで人生を豊かにしていくことがテーマです。
今回は、さつきさんのおかげもあり、学園長さんもすごく興味を持ってくださいました。学校だけではなく、企業でも関心を持ってくださる方が少しずつ増えています。まだまだニッチかもしれませんが、こうやって効率第一主義ではなく、心地よく時間を使いながら、ありたい未来を掴みにいくことの大切さを感じている大人が少しずつ増えていることをとてもうれしく、心強く思っています。
アナログ手帳に変えたら妄想が現実に
吉武:さつきさんご自身の変化もすごかったですよね。
野中:1冊目を使っているときは、まだ私はフリーランスでした。手帳を書きながらいろいろ整理できたことで、2021年の12月に「会社にする?」と思えて、そこから2週間で株式会社treeを設立しました(笑)。
吉武:私も同じです。2週間で会社設立、できちゃうんですよね(笑)。
野中:会社を立ち上げるなんて、自分でもびっくりしました。それだけではなく、一緒に会社を盛り上げたいと言ってくれる人が2人も見つかりました。以前からは考えられないほどの変化ですが、これはタイムコーディネート手帳を使ったからこそ、なんです。Googleカレンダーは今も使っていますが、デジタルではなかなか手帳でやっているような作戦会議や未来の妄想は出来ませんでした。
吉武:すごいですね!デジタルの良さはもちろんあるけれど、妄想にはやっぱりアナログが向いています。デジタルだとあちこちに点在するので全体像がわかりにくくなるんですよね。アナログでも、ノートやメモだと、どこに書いたかわからなくなります。手帳に全部まとまるのがいいと言ってくださる方は多いです。
私自身も『5つの「私」役割シート』の「3年後の私」に書いたことが、書いた年に叶うことが結構あります。書くことにはとても力があるので、ぜひ活用していただきたいですね。
タイムコーディネート手帳は誰も置いていかない手帳
吉武:さつきさんにとって、タイムコーディネート手帳のオススメポイントはどこですか?
野中:ワークショップがあるところですね。
吉武:そうなんです。自分だけで活用が難しそうという方に向けて、4回のワークショップ参加権を手帳にプラスしたものもご用意しています。
野中:ワークショップのなかで、タイムコーディネート手帳の考案者である麻子さんご自身が「見てください、こんなに私書いてないですよ」とおっしゃるんです(笑)。それが私はすごく好きです。
吉武:ありがとうございます(笑)。
野中:私は書けない時期が数カ月ありつつのタイムコーディネート手帳歴2年なんです。書けないことに対して、以前は自分を責めたり、自分に言い訳をしたりしていました。けれど、最近は「人間だから」と思うようになりました。
吉武:最高ですね!
野中:人って、すごく夢中になっていたことをいきなりやめてしまったり、やるつもりがなかったことに必死になったりしますよね。そういう予測できない、不安定でムラがあるのが「人間らしさ」だと思っています。だから、書けないときも当然あるし、それでいいんだなって思えるようになりました。
手帳を通して、今日を楽しく、人生を楽しく生きること。そして、凹んだり、泣いたりしてもいいから、「いろいろあるけれど、私は大丈夫!」と思えることが目的なのを忘れたくないと思っています。だから、私は堂々と書いていません(笑)。
吉武:本当にそうなんです。タイムコーディネート手帳はタイムコーディネートができればそれでOK!キレイに書く必要も、ぎゅうぎゅうに予定を詰め込む必要も、かわいくデコレーションする必要もないんです。
野中:そういう麻子さんの姿勢やワークショップがあるから、タイムコーディネート手帳は「誰も置いていかない手帳」だと感じます。
私もマスタータイムコーディネーターとしてこれから出会ええる方は、絶対に見放さないし、書けない時期があってもそれも含めて花丸ですってお伝えしたいと思っています。そして、それを今、自分に対しても思えていることが何よりうれしいです。
吉武:私もすごくうれしいです。ありがとうございます。
できないことも受け入れて豊かな人生を
吉武:さつきさんのお仕事についても聞かせてください。
野中:2023年の夏頃に出版させてもらうことになりました。今回お話したやり投げの話、ジャングルでハッカ族と仕事をした話など、いろいろな話が本の中に登場します。興味のある方はぜひ手に取っていただけるとうれしいです。
吉武:私も2023年に出版があるので、お互いに楽しみですね!
野中:はい!あと、「Made In Japan Project」という、ものづくりの楽しさを10年後に伝えたいクリエイターたちが集まる団体の理事をしています。職人さん、作家さんと一緒に中学校などに行って、「ものづくり学校」という体験授業をやっているんです。今のところ東海3県にはなりますが、もし「うちの学校に来て」という方がいらっしゃったら、お声がけいただけるとうれしいです。
いろいろなおもしろい「好き」を仕事にしている大人たちと会えるし、子どもたちと一緒に楽しい授業をつくりたいな、と思っています。
Made In Japan Project
https://madeinjapanproject.org/
吉武:すごく興味深いです!子どもたちがいろいろな経験をできるのも大事だし、そこに大人も参加すればもっともっと一緒に楽しめますよね。
野中:ありがとうございます。
吉武:最後にメッセージをお願いします。
野中:人間らしい不安定さを楽しめると、人生の豊かさにつながると思っています。自分自身のブレをポジティブに捉えられてこそ、周りの人に対してもそうできるようになると思っています。だから、まずはタイムコーディネート手帳を通して、「できないこと」を一緒に楽しみましょう!
吉武:人間である自分を楽しむ。すごくいいですね!今日は本当にありがとうございました。
野中:ありがとうございました。
インタビュアー:吉武 麻子
編集:長谷部 敦子